税理士事務所の経理として働いていると、「こんなこともあるのか!」と驚く場面に出くわすことがあります。一口に税理士事務所といっても、規模やお客様の事業内容はさまざまで、ここでお話しするのはあくまで私が働いている例ですのでご了承ください。
私が主に経理処理するのは、個人事業主や比較的小さな企業です。中には、現金出納帳や振替伝票など、今でも手書きの資料を使っているお客様もいらっしゃいます。また、手書きの現金出納帳については、不思議な書き方をされていて困ってしまうようなケースも少なくありません。
データでいただければスムーズなはずですが、お客様独自に作成されたエクセルデータが原因でトラブルになることもしばしばです。
困るのは独自ルールのエクセルデータ
企業からデータを受け取る際には、大きく分けると2つの方法があります。このうち困ることがあるのは、独自ルールのエクセルデータです。
- 会計ソフトからインポートしたデータ
- 独自ルールのエクセルデータ
会計ソフトからインポートしたデータ
企業が税理士事務所とは異なる会計ソフトを使用している場合です。この場合、エクスポートされたデータを受け取り、事務所の会計システムにインポートします。この方法は基本的に問題ありません。
独自ルールのエクセルデータ
Excelで企業の経理担当者が作成したデータを受け取る方法です。ただし、このExcelデータには課題が多いことがあります。すべてがそうではありませんが、基本的な操作が十分に理解されていない状態で作成されていることがよく見受けられます。
こんなエクセルデータが困る
- タイトル行が何度も出てくる
- セルの結合
- 「〃」を使う
- 列方向に科目名が複数・行方向に日付
- 無駄な空白行
タイトル行が何度も出てくる
エクセルデータを印刷する際、2ページ以上ならタイトル行を設定します。しかし、この設定をせず、ページが変わるたびにタイトル行を入れているデータをいただくことが度々あります。
1行目にタイトル

さらに2ページ目の改行される46行目にもタイトル設定が!!

このデータで困るのは、データを会計システムにインポートする際、タイトル行を削除します。地味に面倒くさいです。
「タイトル行を設定」する機能を誰か教えてあげて!と思ってしまいます。

タブ「シート」のタイトル行に見出しの行を設定します。

セルの結合

セルの結合は、会計データだけでなく、多くの場面でみかけます。しかし、結合セルはデータのインポートや計算時にエラーや不具合を引き起こしやすいです。

「〃」を使う
日付や摘要などで、上記と同じ場合以下のように記載していることがあります。
- 〃
- 々
空白にしているパターンもあり
他のツールでインポートする際に取り込みエラー、または取り込めないなどの問題が起こります。
列方向に科目名が複数・行方向に日付
データが見づらく、加工に手間がかかります。インポートをあきらめ、会計システムに手入力した方が早いこともあり。
無駄な空白行
「列方向に科目名が複数・行方向に日付」の上、無駄な空白行の例です。毎回入力後に科目別の合計金額を知りたいため、このようにしているようです。このやり方は度々遭遇します。

- データの再利用で困ることがある、他のシステムへインポートする場合、加工が必要になる
- 見た目が悪く、見にくい、印刷時に困る
必要なデータに罫線を入れた表です。

黄色のセルが問題のある個所です。

データの再利用で困ることがある
空白行が多いと、データを再利用する際に手間が増えます。
例えば、データベースや他のシステムにインポートする場合に空白行を削除する必要があり、作業効率が低下します。加工するより、直接入力した方が早いこともあります。早いといっても時間はかかります。
見た目が悪く・見にくい
無駄な空白行があると、データの流れが分断され、全体としての見た目が悪くなります。情報を素早く確認するのが難しくなり、データの理解や分析に時間がかかります。
また、印刷する際も無駄な行で困ることがあります。罫線を入れていない場合も困ることがあります。
改善案
この例では、無駄な行を削除する方法もあります。

空白行を削除するだけの場合、手順は簡単です。
データの再利用を考えた場合は、このようなデータは避けた方がよいです。
困る手書きデータ
- ごちゃまぜ
- 重複で記載
ごちゃまぜ
はじめて現金出納帳を渡されたときは、枚数が少なかったので、すぐに入力できるだろうと思っていました。しかし、その現金出納帳には売掛の記載も含まれていたのです。以下はその例です。

飲食店の例で、赤枠は店内飲食、青枠は持ち帰り。勘定科目には売掛金、摘要欄に現金の売り上げが記載されている例です。さらに金額にカンマ「,」を記載していないため見にくい。残高は記載されているが、基本間違っている。上記を正しく分けると以下。
- 5/1 売上 店内 3,300円
- 5/1 売上 テイクアウト 1,080円
- 5/1 クレジットカード 店内 2,100円
- 5/1 電子マネー 店内 1,100円
- 5/1 クレジットカード テイクアウト 1,080円
電子マネーは、複数の種類があり実際は「PayPay」などの記載でさらに複雑
これはかなり変わった記載方法です。逆に、どうやってこんな方法を思いついたのだろうと不思議になります。また、記載している本人が混乱しないのだろうかと毎回思います。現金出納帳自体は金額を合わせることができますが、売掛金の情報については、入力漏れがあっても気づかない可能性があります。
私は単なる経理担当で、担当者からの指示に従って入力をするだけの役割です。お客様に直接質問したり意見を聞いたりすることはありません。記載方法については、何度か改善の提案をしていたそうだが、どうやらそれを実現するのは難しいとのことです。
重複で記載
預金から振り込み処理をしているのに、現金出納帳にも記載されている、ということがあります。
- 5/10 ビーテン 3,300
- 5/10 売掛金支払 B店 3,300円
あるお客様は毎回同じように記載し、担当者が説明しても理解できないようです。もはやあきらめるしかありません。
データでも手書きでも困る例
- 消費税率が違うのに合計で書かれている
- 残高は合ってない
- カンマがない
- 何のために何に支払ったのかわからない
消費税率が違うのに合計で書かれている
いろいろなケースがあります。
食品と物
例えば、現金出納帳に以下のように記載されてる場合。レシート等なし。
5/1 支払 1,640円 Aホームセンター しょうゆ、洗剤
この場合、しょうゆは軽減税率8%、洗剤は10%ですが、内訳が書かれていないため税率を特定できません。仕方なく、10%に統一して「洗剤他」と記載することもあります。
誰に購入したか不明
お歳暮のような記録も同様です。商品内容が記載されていないと消費税率が不明です。
11/20 支払 1,135円 B百貨店 お歳暮
賃貸物件
賃貸物件の場合、店舗の収入には消費税がかかりますが、住人の家賃収入には消費税がかかりません。しかし、記録に店舗か住人かの区別が記載されていないことがあります。
このような場合は、必ず確認して区別を明確にし、正確に記載します。
残高は合ってない
個人事業主や小さな会社の経理処理を担当していると、一般企業と比べて非常に大雑把だと感じることがあります。その中で、よくあるのは残高が合っていないこと。
預金通帳のコピーをいただく場合は、さすがに間違ってはいませんが、現金出納帳は適当な場合がよくあります。渡された資料をもとに入力すると、現金残高がマイナスになったり、記載されている残高が実際と異なったりすることがあります。
カンマがない
「,」がない金額は、見にくいし間違えそうになります。
例えば、この金額をぱっと見ですぐわかりません。
5000000
カンマがあるとわかりやすい
5,000,000
何を何のために使ったのか不明
何を何のために使ったのかが不明な記録に困ることがあります。たとえ知られている店名であっても、食品を買ったのか物を購入したのか、具体的な内容がわからないことがあります。
食品か物かで消費税率が違う5/1 支払 500円 A店
お客様との飲食だったのか、社員との飲食だったのかが不明
5/1 支払 500円 飲食店名
さらに、勘定科目が記載されていても、内容がはっきりしないこともあります。それなら、「取引先のAさんに手土産でお菓子を買った」のように具体的に書いてあった方が助かります。
最後に
小さな会社や個人事業主の経理では、ある程度柔軟性を持たざるを得ない場面が多いため、これを受け入れる姿勢が求められると感じています。
特に「勝手に値引きで混乱」関しては、明らかに間違った処理ですが、相手は「お客様」という立場であるため、経理担当としては何も言わずそのまま処理します。
中にはこのような処理に納得がいかず、担当者に問いただす人もいます。しかし、私の意見では、このような状況を許せないタイプの人は、規模がある程度大きく、きっちりした経理ルールが確立された企業で働く方が向いているのではないかと思います。